地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所の紹介

2018年1月25日

地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所(産技総研)は、神奈川県産業技術センター(産技C)と公益財団法人神奈川科学技術アカデミー(KAST)が発展的に統合し、平成29年4月1日に新たな組織として発足しました。

産技総研は、産技CとKASTの強みを活かしたイノベーション創出機関として、基礎研究から事業化までの一貫した支援を行い、県内産業と科学技術の振興を図ることを目的としています。

KAST時代から実施してきた研究開発事業では、県の科学技術政策や産業振興政策に沿った研究テーマを任期付きプロジェクトで展開し、出口戦略を見定めた研究開発を推進しています。

今回のコラムでは、神奈川県のヘルスケア・ニューフロンティア政策や県が参画する「京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略総合特区」と関連する健康・ヘルスケア分野の研究テーマについて紹介させていただきます。

【未病改善食品評価プロジェクト】 リーダー 阿部啓子(東大)

高齢化、高ストレス化社会を迎え、健康で豊かな生活を維持することが求められています。本プロジェクトでは、神奈川県内の企業や公設研究機関と連携を図りながら、ニュートリゲノミクス*を用いた科学的エビデンスに基づいて、食品や化粧品等の機能性評価を行う国際評価機関の構築を目指しています。

2015年より機能性表示食品制度(消費者庁)が始まり、食品の機能性についての科学的エビデンスがよりいっそう社会的に求められるようになりました。本プロジェクトでは、様々な食品機能性評価を動物試験にて行い、さらに動物により明らかにした機能性をヒトで確認する研究に着手しています。

第一弾として桑葉の評価を行い、動物試験で得られた結果の一部がヒト試験でも同様に観察されることが明らかになりました。第二弾としてカナダ産のメープルシロップの評価を行い、動物で肝臓に対する作用を明らかにし、ヒトにおける機能性も明らかにしつつあります。

本プロジェクトで開発した評価法や得られた科学的エビデンスを基に、企業等が求めている食の機能性評価をワンストップ窓口にて受託し、動物試験により機能性の評価を明らかにすると共に、その評価の有効性がヒト試験によっても実証されるという一連の評価システムを「未病改善国際評価技術センター」で展開することを目標としています。

*ニュートリゲノミクスとは、nutrition(栄養)とgenomics(遺伝子科学)の合成語で、食品などの摂取に伴って起こる生体の変化を分子レベルで網羅的に解析する科学

 

【腸内細菌叢プロジェクト】 リーダー 大野博司(理研)

近年、腸内細菌に関する研究が盛んに行われ、糖尿病をはじめとする生活習慣病や各種疾患との関連が明らかとなりました。腸内環境を良い状態に保つことは健康を維持するうえで大切な要素となり、腸内細菌叢の変化を捉え適切に制御する技術が重要視されています。一方で腸内細菌叢は、民族や個々人による違いがあり、この違いを考慮した技術開発が求められています。

こうした背景から本プロジェクトでは、民族や個々人による腸内細菌叢の違いを考慮した腸内細菌叢を介した生活習慣病等の予防、診断、治療法の開発を行います。

糖尿病をモデルケースとして、検診受診者の協力者から得られた 生活習慣 、腸内環境、代謝機能、遺伝子多型等の臨床情報や、疾患モデル動物を用いた動物試験から得られた情報を同時にデータ化し、これらを統合解析することで、糖尿病と腸内細菌叢の関係について横断的に解析します。腸内細菌叢の変化に伴う糖尿病の発症メカニズムを明らかにすることで、その予防方法の確立を目指します。さらに得られた知見を基に、糖尿病のマーカー探索や機能性食品の開発などを展開し、腸内細菌叢を介した糖尿病の予防、診断、治療方法の確立を目指します。本プロジェクトの実施により、解析プラットフォームが構築されれば、糖尿病以外にも腸内細菌叢のバランスの乱れが関与する様々な疾患等への適用も期待されます。

【人工細胞膜システムプロジェクト】 リーダー 竹内昌治(東大)

細胞膜に埋め込まれた状態で機能を発揮する膜タンパク質は、細胞内外への物質の輸送や情報の伝達など、生命に重要な役割を担っています。また、膜タンパク質の機能不全が様々な疾病に発展することや、医薬品の効き易さ・副作用とも関わることがわかってきました。本プロジェクトでは、人工的に作製した細胞膜(人工脂質二重膜)へ、標的膜タンパク質を挿入し、電流や蛍光の強さを計測することで、医薬品候補物質の標的膜タンパク質への薬効等の評価が可能な膜タンパク質チップの実用化を目指しています。

病気の予知・予防への展開として、本プロジェクトで開発したコア技術である人工脂質二重膜を活用したセンシング技術を利用し、ノイズフリーで特異性の高いマイクロRNA(多種疾病の有用バイオマーカー)の検出系構築を目指しています。この「人工脂質二重膜を用いたマイクロRNA診断技術」を発展させ、癌をはじめとしたバイオマーカーとして注目されるマイクロRNAを、「迅速」、「高感度」かつ「簡便」に検出する診断技術・デバイスを開発することで、疾病の早期診断、早期治療が可能となります。

産技総研で実施してます健康・ヘルスケア分野の3つのプロジェクトを紹介させていただきましたが、他にも複数のプロジェクトを展開しております。今後とも「健康脆弱化予知予防コンソーシアム」の活動を通じて、会員の皆様と研究活動や未病改善国際評価技術センターとの連携をさせていただけることを期待しております。

 

地方独立行政法人 神奈川県立産業技術総合研究所 研究開発部長 柳沼由美子